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 孟徳さんは相変わらず忙しくて、夜に会えても頭痛でつらそうなときが多い。
 特に寒くなってからは頭痛が増えた気がする。痛いとはあまり言わないけど、そんなとき孟徳さんは私に膝枕をしてもらいたがる。
 二人でいるときは甘えてくれるのが嬉しくて、髪を撫でたり首筋をさすったりしていた。
 大きな猫みたいに目を瞑って撫でられてる孟徳さんを見るのは好き。
 孟徳さんの首筋はいつも硬くて、いつ肩の力を抜くんだろうって思っていた。

 数日前、思いついて軍医のおじいさんに、推拿の先生を紹介してもらった。ほぐし方を教えてもらって今日はそっと力加減を変えてみる。

「あれ、なんだかいつもと違うね?」

「あ、気づいてくれました?推拿の先生を紹介してもらって覚えてきました」

 嬉しくてすぐにネタばらしをしてしまう。

「俺のために?」

「はい」

 孟徳さんがにこにこにこにこして体を起こし、私をぎゅっと抱きしめる。

「うれしいなあ、それだけで頭痛がどっかいっちゃった」

「お、大げさですよ、まだ習い始めなので、少し実験台になっててください」

 照れ隠しでうつ伏せに誘導して、背中を撫でるように押していく。

「君の顔が見たい…」

 枕からこもった声がする。

「ほぐれて頭が痛いのおさまったら飽きるほど見ていいですよ」

「俺は飽きない、自信がある」

 月明かりが窓から差し込んでいた。

 今日はかなり明るい。

「じゃあ、窓から入ってくる月明かりがあの花瓶にかかるまでの間、実験台になっててくださいね」

「わかったよ、おとなしく揉まれてる」

 広い背中が呼吸で静かに上下する。
 吐く息に合わせてゆっくり力をかける。
 しばらくすると、少し力が抜けてきたみたいだった。

 ほぐしていると硬くて血の気がなかった首筋も温まってきて、すぅ……と寝息が聞こえた。

 孟徳さんはいつも、いろんなことをしてくれて、私に不自由がないようにしてくれる。
 私は甘やかされるばかりで、何もできないのがもどかしかった。
 そういうと、いつも「君はいてくれるだけでいいんだ」と言ってくれるけど。

 私ができることは寄り添うこと。
 痛みにも、喜びにも。

 気持ちよさそうな寝息が嬉しくて、月明かりが花瓶にかかっても起こさないでいた。

(こういう時くらいしか孟徳さんの寝顔をじっくり見られないかも)

 そう思って、そっと顔を寄せてみる。
 ぱちっと孟徳さんの目が開いて、月明かりのなか見つめ合う。
 孟徳さんの濃茶色の瞳に私が映っている。

「うとうとしてた。ありがと、なんだか力が抜けたよ」

 孟徳さんが私を抱き寄せて髪を撫でる。

「君の手、温かくて、気持ちよかった。頭も今は痛くないし……」

 深く甘い口づけが私を溶かす。

「……今度は俺の番。ねえ、君のかわいい顔をたっぷり見せて」

 月明かりのなか、私たちは寄り添う。誰よりも一番近くに。








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忙しいといったな。あれは本当だ。

なんでしょうね、忙しすぎハイってやつですかね。

今朝、電車の中から黄色く色づいた銀杏が見えて、猛然とスマホのメモに書きはじめ、昼休みと帰りの電車と風呂上りの時間に一気に書き上げました。

孟花初めて書けて満足です。

ではでは。

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「花ちゃん、出かけよう」

秋から冬に差し掛かる晴れが続いた日の早朝、窓の外から潜めた孟徳さんの声がした。

前に襄陽で抜け出した時みたいに、孟徳さんは髪を一つに結んで軽装になっている。

「孟徳さん?今日は会談とか会議とかいろいろって言ってませんでした?」

「うん、文若が昨夜こっちに来てくれたから、任せることにした。ここ半月くらい君とゆっくり過ごせてないからね。ま、かなり頑張った俺としては君と過ごす時間っていうご褒美ぐらいもらっても良いと思うんだ」

こんな天気の良い日に孟徳さんと出かけられるのは、すごく嬉しい。

文若さんは了解してるのか…何故孟徳さんは軽装で窓の下から声がするのか…と疑問が浮かばなくもないけど、それ以上考えるのはやめておく。

何となく、文若さんの深いため息が聞こえる気がして心の中でごめんなさい!と手を合わせた。

「早く行こう!何なら着替えを手伝ってあげ…」

笑顔で急かされる。

「すぐ着替えます!」

慌てて返事をすると、孟徳さんの笑い声が聞こえた。
前のめりで軽装に着替える。大事にしまっていた襄陽で買ってもらった耳飾りもつけて。

窓からこっそり出るのに抱きとめられて、スリルでどきどきしてるのか、孟徳さんが近いからどきどきしてるのかわからないけど、それだけで楽しくてたまらない。

「耳飾り、つけてきてくれたんだ。かわいいなあ。君のそういうとこ大好きだよ」

耳元に孟徳さんの柔らかな声がする。優しく見つめられて、言葉を探してるとおでこにキスが降ってきた。

「んー、このまま君を抱きしめていたい……けど、見つかる前に行こう!手、ちょうだい」

孟徳さんは、自分を納得させるように言葉にして私の両肩を包むようにとんとん叩いて、手を引いて歩いて行く。

城壁の外に待機させていた馬に二人で乗って、ひんやりして乾いた風のなか、駆けていく。
日差しが柔らかくて気持ちいい。
どこに行くか聞いてみたけど、秘密にされた。

最初に寄った街で、朝昼兼用の食事とお茶にする。いつもの紅い衣装は孟徳さんらしいけど、たまに見るこういう姿も似合ってる。

「花ちゃん、こっち、こっち」

私の手を引いて店から店へと連れ回す孟徳さんの笑顔は、城でみるのと違う気がした。

私は孟徳さんが責任やしがらみを纏った大人になってからしか知らないけど、もし、同じ学校で一つか二つ上の先輩だったら、こんな顔で笑って、いっぱい一緒にいたんだろうなと思う。

襄陽で過ごした時みたいに、街の人は誰も孟徳さんだとは気づかない。なのに、やっぱり人目を惹く。屋台のおじさんは気前よくおまけしてくれるし、店番の女の人はうっとり孟徳さんを見上げていた。孟徳さんは、丞相という肩書きがなくても人を魅きつける。

孟徳さんは気づいて知らぬふりをしてるのか、人目を惹くのが当たり前になってしまっていて気にしていないのかわからない。

周りの様子がどうであれ、私だけを気にかけてくれる。それがくすぐったくて、今でも照れてしまう。

「ねえ、これ、どうかな?」

小物屋さんの店先で、孟徳さんがいつもしている帯のような暖かな黄色の玉がついた首飾りを私の胸元にあわせてきた。
しずく型がかわいい。派手すぎないところは私の好みを考えてくれている気がする。

「わあ、かわいい!」

「じゃあ、これ、今日の記念に。ずっと覚えててほしいんだ」

「ふふっ、お出かけする度に買ってもらったら、おばあちゃんになるころには、じゃらじゃらになって全部つけたら首が長くなりそう……」

「あははっ、君の姿が埋もれてしまうくらいにたくさん出かけたいね」

「はい!私も一緒にいたいです」

「嬉しいこというねー」

孟徳さんにも、私のお小遣いからお揃いの玉の根付を買って街を後にした。



馬を早駆けして、昼過ぎに着いた丘には大きな銀杏が秋の日差しを受けて金色に輝いていた。

こんな大きな銀杏はこの世界に来る前、神社でも公園でも見たことはなかった。

冷たい北風が吹き抜けると、ざぁっと葉ずれの音がする。
抜けるような青い空に、銀杏の黄色が舞い散る。

「すごい……金色の雨みたい……」

不意に背中からぎゅっと抱きしめられる。私の肩に顔を埋めて孟徳さんが呟いた。

「君にこれを見せたかったんだ。昔、ここを通った時もこんな季節だった。俺、その時ね、今の君と同じこと思ったんだ」

くぐもった声は少し震えてる気がした。

“適切な判断と決定” を察して選択できる人だから背負いこんでしまった重荷。

感受性が豊かだから察してしまえるけれど、もしもそういう判断が必要でないところにいたのなら……。

私といる時はただの“孟徳さん”でいてほしい。

「おんなじ、ですね」

孟徳さんの腕に手を添えて、そっと撫でる。

「うん……そうだね……君が俺と同じ言葉で表現するとまでは思ってなかった。君といると素直な気持ちになるんだ。俺の気持ちの柔らかなとこで感じるものを君と共有したかった」

「この銀杏の色だから、この玉なんですね」

「あ、うれしいな、わかってくれた?
……ねぇ、顔見せて。どんなかわいい顔して君はそんなこと言うの?」

優しく口づけされる。

「……近すぎて、顔、見えてないですよ」

おでこをくっつけて、囁く。

「見えた……誰よりも、君の一番近くにいたいんだ。愛してるよ」


金色の雨よりもたくさんの甘い口づけが降る。

この色はずっと忘れない。

孟徳さんの優しい瞳も。







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 いつものように二人で薬草を探しに出かけた。

 初夏の日差しの中、蓮華が一面に広がっていた。小さいころ花を摘まんで蜜を吸った。ふと懐かしくなって、早安を呼び止めて蓮華のじゅうたんに腰を下ろした。

「この花の蜜、小さいころよく吸ってたんだ」

 私はそう言ってやってみせる。

「そういえば、俺も母親に教えられたような気がする……」

 早安は私の横で仰向けになって、手に取った蓮華を太陽にかざして眩しそうに眺めていた。一瞬だけ切なそうな表情になったような気がした。

「あったかくて気持ちいいな。眠くなってきた。花、膝貸して」

 ころんと寝返りをうって頭を膝にのせてくる。
 早安はにっと笑って、私の顔を腕で引き寄せて花びらがふれるようなキスをした。

 すぅ……と寝息が聞こえる。

 柔らかな前髪を撫でてみる。
 気づいているのだろうけど、起きない。
 前よりぐっすり眠るようになってるんだと思う。

 安心してくれるようになったのかな。

 何となく嬉しくなる。

 きらきらと陽光に映える金色の髪が風でふわふわ揺れる。

 まつ毛はきっと私より長い。

 早安を膝枕して、蓮華の冠を編む。きっと早安に似合う。

 手の届く範囲だから小さくして花を多めに編みこんでいくといい感じの花冠ができあがっていく。

 完成するころに、早安が目を覚ました。

「なんか……いいな…。こういうの」

 照れたような笑顔を見せて、私の手を握る。
 絡めた指が穏やかに私の手の甲を撫でる。

「うん」

 早安は体を起こし、私の頬に触れる。

「ずっとこんな風に一緒にいような。俺がじいさんで花がばあさんになっても」

 私は編みこんだ花冠を早安の頭に載せる。思った通り金色の髪と蓮華の色が似合う。

 二人だけの戴冠式。

 一緒に生きていく大切な人へ贈る花冠。

「約束ね」

「ああ」

 誓いのキスをする。

 永遠に愛し合う約束の。






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あとがき
 
 早安さんのレビューに拍手ぽちっとありがとうございました。

 実はこれ、公瑾さんの雨の話「桂花」より先、仲謀さんプレイより前に書きはじめていました。ほっぺぐにはかぶっちゃったな。

 ロマンのかけらもない着想の経緯は以下です。

 鼻が詰まる→メンソレータムを鼻の下に塗る→メントールってスッとする→薄荷→蒸留→このネタならスペシャルシナリオ後の早安さんだなあって感じです。

 あー・・乙女ゲームやってると日々妄想ネタが転がってるから楽しい。 
 早安さんは花ちゃんと出逢うまで暗部を担う不遇な時期を送っていたので、花ちゃんと年齢相応にきゃっきゃうふふする時間を作って少しずつ癒されていってほしいなと思うのです。

 そうしたらなかなか薄荷にたどり着けず、3部構成になりました。

 次のお話「蓮華」までできてるんですが「薄荷」ができてからまとめてUPしようと思っています。11月は殺人的なスケジュールなので、ためてるというのもある(笑)


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