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 嵐の間共に過ごすため花を連れて別荘にきた。
 着いたその日はまだ小雨だったが、翌日から雨脚は強まってきた。

 雨の早朝はまだ薄暗く、花はまだ夢の中だ。
 戦のない国から来たというのは本当なのだろう。
 警戒心はほとんどなく深く眠っている。

 孫呉を安泰にして花がいつまでも安心して眠れるようにする。
 それが私人としての軸となってしまった。
 一人の女人を深く愛することなど考えていなかった頃の私を知っている伯符が今の私をみたら笑うだろうか。

 ”ほら、俺の言うのもわかるだろ?愛する人を持つのは強くなれるんだよ”

 伯符のおおらかな笑顔を思い浮かべる。
(嵐の後はすっきりと晴れるでしょうし、砦を花に見せるのは帰りでいいとして
……子敬から”視察”の名目をもらっているわけですから、私だけでも風雨の準備の様子は見に行っておきましょうか……)  
 支度をして、湯を沸かす間に外の桂花を掌に集めて皿に載せた。
 室内にも柔らかな香りが広がる。
 
 それが刺激になったのか、花が目を覚ました。自分が先に起きていないことを気にしていたけれど、昨夜はこの数日のすれ違いを埋めるかのように遅くまで睦言を交わしていたから、花の体力では起きれないだろう。しどけない様子が私を煽る。

 花に白湯を勧めて髪を撫でているうちに、それだけでは抑えられず、深く口づける。
 花といると制していた自分が解けるばかりか、自分でもこんな熱情があるのかと気づかされる。


 雨に冷える室内で、私たちだけがぬくもりを持っていた。

 花が再びまどろむ。
 出かけてくることを告げて、雨の中、砦の様子を見に行った。

 砦は普段から調練しているだけあり、着実に補強が進んでいた。都督の私が出向いたくらいだから、大きな嵐が来るのだろうと、兵士たちは気を引き締めたようだった。壁に木材を打ち付けたり、飛ばされそうなものを収納したりと立ち働いていた。心配することはなさそうだった。
 思い立って厨房に寄り、賄い方の兵士に蓋つきの小さな器と塩を分けてもらった。
 雲の切れ間を縫って別荘に戻る。
 途中、桂花を見つけるごとに、少しずつ花を集めた。

 部屋が香りで満ちるように。
 この香りと私のぬくもりを、花の記憶にとどめるために。


 私の口づけで肌に散る花びらは数日も経てば色を失くす。
 桂花が香るたびに花は私の指先を思い出すだろう。

 そして集めた桂花を塩で封じこめる。
 蓋をあけるとき、花はどんな表情をするのか。
 きっと頬や耳を染める姿が可愛らしく、また私は口づけをするのだろう。



 

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