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茂が客からもらったという切符はちょうど三枚だったので、博、雅、はるが行くことになった。千富には雅がはるをつれていくと説明して強引に段取りをつけてしまった。だが、はるは浮かない顔である。準備をするのに使用人宿舎に戻っても手が進まない。

「なにやってんのよ、早くしないと置いてかれちゃうわよ。いいなあ。私も行きたいくらいよ。ほら、あんたの分の西瓜食べてさっさと行きなさいよ」

「たえちゃん…」

「まさか、あんた、怖がりなの?」

「…私の西瓜あげるから、たえちゃん代わりに行ってくれない?」

「ぷっ…あははっ」

「なによ、そんなに笑わなくっても…」

「大丈夫よ、お化けっていっても役者がやってるだけなんだから、お芝居観にいくつもりで行ってらっしゃいよ。じゃあ、この西瓜は私が貰っておいてあげる!さあ、行った行った!」

「だって、雅様のあの邪な笑顔、絶対私が怖がりだって気づいて命令したと思うの」

「お化け屋敷の怖さをさらに堪能できそうな状況じゃない。今年きてるのは仕掛けも凝ってて結構面白いって噂よ」

 たえがはるを玄関に押していく。

「お化けなんてわざわざ会いたくないもん、楽しいとか言う人の気が知れな…ちょっ、たえちゃん、待っ…」

「お待たせしましたー」

 たえがはるの背中を押しながら明るい声で開けた玄関の扉の先には、博も雅も準備万端で待っていた。博からは期待に満ちた雰囲気が、雅からは底冷えのする企みがにじみ出ている。こっちのほうがよっぽど背筋が寒い。そう、待たせたのに雅が怒らない。異常事態である。

「さあ、はる吉、いっくよー!」

 博はいそいそと車に乗り込む。

「じゃあ、この鞄持ってて」

 雅がはるに小さな鞄を持たせ、車に押し込むようにして自分も乗り込む。
 鞄なんて普段持ち歩かないくせに!そう心の中で反論しても、逆らいようがない。

 予想通り、車内は大怪談大会となった。はるが耳を塞ごうとすると雅がにっこり笑ってその手を制止する。屋敷は空き地のあるはずれのほうに設営されているから道中が長い。ふとした間に博が「わっ!」と驚かすだけで声にならない悲鳴を上げるくらい、はるの肝は冷え切っている。もうすぐ着くというところで、珍しく運転手が話を始めた。

「お坊ちゃま方、お化け屋敷に行かれるのはとても楽しそうなのですが、一つだけお気をつけくださいね。何でも、この役者一座は巡業であちらこちらに行っておりまして、私の故郷にも来ていたことがありました。そのときに聞いた噂なんですが…。女役者に子供がいたそうです。ある日その子供が高熱を出した。医者にみせてやりたいけれど、巡業中は休めない。女役者は、その日の出番が終わった夜に高いお金を払って往診をお願いすることにして医者に連絡をとったんだそうです。後ろ髪惹かれる思いで、興行に向かい、出番を終えた。急いで楽屋に戻ったが、医者も間に合わず子供は息絶えていたのだそうです。以来、その一座のお化け屋敷には女の子が母親を探して客と一緒に回るという噂があるのですよ。」 

「あは…は、なんか、現実味のある話で…やだなあ、気を利かせすぎだよ」

 博がうわずった声で答える。

「なかなかいい演出をありがとう」

 雅が飄々とした調子で答える。

「演出か噂かはお坊ちゃま方のお考え次第です」
 
 運転手の答えにはるは声も出ない。



-参- へ 














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