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春一番が吹いたかと思うと翌日の帝都は陽気に包まれ、みるみる桜のつぼみがほころんだ。

  さくら さくら やよいの そらは  

 銀座に買い物を頼まれたはるが道すがら桜にみとれながら口ずさむ。

  みわたす か ぎ …んぐっ

「す、すみませんっ」

 人にぶつかってしまい慌ててあやまると、見覚えのある白い背広だった。

「あ、正様!」

「はる、またお前か!…まったくお前はどこをみて歩いているんだ」

 正が眉間にしわを寄せてため息をつく。

「すみません、桜がきれいで見とれていました」

「もういい…」

 そのやり取りを横でみていた男性が微笑む。柔和な面持ちと知的な雰囲気が漂う背広姿。

「ははは、かわいらしいお嬢さんだ。宮ノ杜さん、その方は?」

「三好子爵。これはお見苦しいところを…。うちの使用人なのですが、行き届かなくて恐縮です」

子爵と呼ばれた男性は、学者のようで、正と話しこんでいるところだった。

「いえいえ、僕だって桜の下を通るときは思わず見上げてしまいますからね。桜には人を惹きつける力があるのですよ。ああ、そうだ、この陽気で上野の桜も咲き誇っていることでしょう。どうです、せっかくですから上野を歩きながら話しませんか」

「それは良いですな、さっそく車を回させましょう。はる、車の手配を頼む」

「かしこまりました!」

 はるが宮ノ杜銀行の受付に伝えに行くとほどなく車が正たちの前に来た。正たちが乗り込んだあと、お見送りのつもりでお辞儀をしかけたはるに三好子爵が声をかける。

「桜がお好きなようだから、そこのお嬢さんも一緒に」

「子爵、使用人のことはお構いなく」

「宮ノ杜さん、使用人であっても桜の下でほころぶ心は同じですよ。僕は木材の研究をしているけれど、桜ほど人を微笑ませる樹はないと思うんです。桜を愛でられる時間は短い。ましてや今日は上天気だ。ここは僕に免じて」

「そうまでおっしゃるのでしたら。いたみいります。おい、早く乗りなさい」

「はいっ!ありがとうございます!」

 上野の桜。田舎の桜並木より数倍も大きな樹が並ぶという。うわさには聞いていたけれど見られることになるなんて思っていなかった。車中では、正と三好が木材のこと、これからの製紙工業のことについて話している。正が通貨の流れだけでなく将来的なこの国の動きを考えているのが、詳しくわからないなりに、はるにも感じ取れた。


-弐- へ 











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