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お化け屋敷の前は、人で賑わっていた。小屋のなかからは時折悲鳴が聞こえたり、お芝居でよく耳にするおどろおどろしい笛の音や、太鼓のどろどろどろ…という音が響いてくる。小屋の横には、縁日のような店もいくつかあって、ちょっとしたお祭りのようだ。集まっている人は楽しげで、小屋から出てきた人たちも。怖かったねなどといいながら笑いあっている。その雰囲気に、先ほどの運転手の話にやや腰がひけていた博も気持ちをもちなおして、行く気満々である。
「はる、お前は僕の鞄をもってついてくること。その鞄なくしたら、とんでもないことになるからね。覚えておいて」
雅が宣言したことで、はるには「外でお待ちしております」すら選択肢から消えた。行くしかない。雅の綺麗な口元がにんまりと笑っている。怖がっている様子を楽しんでいるのは間違いない。
なんて悪趣味!
はるは半べそで雅をにらみつけるが、雅は一向に意に介していない。
入場待ちの行列に並んで、それほどたたないうちに、順番が回ってきた。
三人が中に入ると中は真っ暗闇で、全く前が見えない。
さわさわ…と柳の枝が揺れる音がする。
「あ、あ、あ、ああのっ、置いていかないでくださいね」
はるが震える声で懇願する。
「はる吉、遅れないでちゃんとついてきてね」
博は先頭にたっているようだ。
はるが手さぐりをしつつ前に進もうとすると、その手を誰かが捕らえた。雅の位置からだった。雅の柔らかな袖の生地がはるの腕に触れる。
「こんな面白いもの置いていくわけない」
暗闇にやや目が慣れてきたところで目を凝らすと、雅の顔がすぐ近くにあった。紅い唇が闇に妖しく映る。違う意味で心臓に悪い。
いつも苛めるのに、こういうときに手を握って安心させるなんてずるい。
そう思い続けるゆとりはなかった。先に進むと足元がぬるりとしたり、横から破れ傘が飛び出てくる。そのたびにはるは悲鳴を上げて雅の腕にしがみつく。おっかなびっくり、雅にしがみついているので、なかなか進まない。そんなはるを雅はうれしそうに見ていたことにはるは気づかない。
役者もはるの怖がり具合にさぞかしやる気をかきたてられたのだろう。前や横からお化けがでると思っていたら、潜んでいたお化けがはるの背後から飛び出てきた。あまりの唐突さにはるは悲鳴をあげてしゃがみこんでしまった。お化けは雅も怖がらせようとおそいかかるふりをする。
「ちょっと、やりすぎ」
怒気をこめて、雅がお化けを睨みつける。その気迫にお化けがたじろぐ。雅はしゃがみこんだはるの背中から抱きしめてささやいた。
「こんなの、怖がらなくてもいい。お前は僕だけ怖がってれば良いんだ」
雅ははるを立たせると、はるを背中から抱えるようにして先へ進む。雅の左手ははるを包み込むように左の肩に置かれている。はるは雅の右手を握り締めていた。「ゴミのくせに」と怒られるかな、と思うのに、雅ははるの手をしっかりと握り返してくれている。雅からふわっといい香りがする。薄い生地を通して雅の体温が伝わってくる。はるはお化け屋敷が怖いのか、雅の態度に眩暈を覚えているのかわからなかった。ただ、心臓だけは早鐘のように鳴っていた。
前の方から時折博の絶叫が聞こえる。もうすぐ出口のようだ。
「ふん、短すぎてつまんない」
雅は、ぱっとはるの手を離した。
出口の帳を抜けると蝉の声と暑気のなかに放り出された。
夏の西日が眩しかった。
-おまけ- へ
「はる、お前は僕の鞄をもってついてくること。その鞄なくしたら、とんでもないことになるからね。覚えておいて」
雅が宣言したことで、はるには「外でお待ちしております」すら選択肢から消えた。行くしかない。雅の綺麗な口元がにんまりと笑っている。怖がっている様子を楽しんでいるのは間違いない。
なんて悪趣味!
はるは半べそで雅をにらみつけるが、雅は一向に意に介していない。
入場待ちの行列に並んで、それほどたたないうちに、順番が回ってきた。
三人が中に入ると中は真っ暗闇で、全く前が見えない。
さわさわ…と柳の枝が揺れる音がする。
「あ、あ、あ、ああのっ、置いていかないでくださいね」
はるが震える声で懇願する。
「はる吉、遅れないでちゃんとついてきてね」
博は先頭にたっているようだ。
はるが手さぐりをしつつ前に進もうとすると、その手を誰かが捕らえた。雅の位置からだった。雅の柔らかな袖の生地がはるの腕に触れる。
「こんな面白いもの置いていくわけない」
暗闇にやや目が慣れてきたところで目を凝らすと、雅の顔がすぐ近くにあった。紅い唇が闇に妖しく映る。違う意味で心臓に悪い。
いつも苛めるのに、こういうときに手を握って安心させるなんてずるい。
そう思い続けるゆとりはなかった。先に進むと足元がぬるりとしたり、横から破れ傘が飛び出てくる。そのたびにはるは悲鳴を上げて雅の腕にしがみつく。おっかなびっくり、雅にしがみついているので、なかなか進まない。そんなはるを雅はうれしそうに見ていたことにはるは気づかない。
役者もはるの怖がり具合にさぞかしやる気をかきたてられたのだろう。前や横からお化けがでると思っていたら、潜んでいたお化けがはるの背後から飛び出てきた。あまりの唐突さにはるは悲鳴をあげてしゃがみこんでしまった。お化けは雅も怖がらせようとおそいかかるふりをする。
「ちょっと、やりすぎ」
怒気をこめて、雅がお化けを睨みつける。その気迫にお化けがたじろぐ。雅はしゃがみこんだはるの背中から抱きしめてささやいた。
「こんなの、怖がらなくてもいい。お前は僕だけ怖がってれば良いんだ」
雅ははるを立たせると、はるを背中から抱えるようにして先へ進む。雅の左手ははるを包み込むように左の肩に置かれている。はるは雅の右手を握り締めていた。「ゴミのくせに」と怒られるかな、と思うのに、雅ははるの手をしっかりと握り返してくれている。雅からふわっといい香りがする。薄い生地を通して雅の体温が伝わってくる。はるはお化け屋敷が怖いのか、雅の態度に眩暈を覚えているのかわからなかった。ただ、心臓だけは早鐘のように鳴っていた。
前の方から時折博の絶叫が聞こえる。もうすぐ出口のようだ。
「ふん、短すぎてつまんない」
雅は、ぱっとはるの手を離した。
出口の帳を抜けると蝉の声と暑気のなかに放り出された。
夏の西日が眩しかった。
-おまけ- へ
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