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城にいたはずが、白い光に包まれたと思ったら山の中に放り出されていた。
賊に追われていた君貢たちを助け、俺と花は君貢の家に夫婦ということにして一夜の宿を借りた。
寝台は一つだけで、床で寝ると言い出した花を言いくるめて、布で仕切って両端に寝ることにした。
ほどなく布で仕切られた向こうから彼女の寝息が聞こえてきた。
そっと布を上げて覗き込むと、安心しきって寝ている。
「警戒心があるんだかないんだか…」
十七になったと言っていたし、ここに飛ばされる前もだいぶん口説いてきたはずだけど、この状況ですやすや眠られると、俺は男として見られていないのかと少し傷つく。
(そんなに魅力ないかなあ、俺……)
頬杖をついて、寝顔を眺める。
すべすべの頬も小さな唇もかわいい。
(君が話してくれた昔話では、女の人に姿を変えて恩返しにきた鶴が「決して覗かないでください」と戸を閉めて機を織っていたのにおじいさんは見てしまった。鶴はそれで山に帰ってしまったんだった)
(こうして君の寝顔を見てしまったら君はどこかに帰ってしまうんだろうか)
天女は人と交わってしまえば下界にいるしかなくなる。
ならば、いっそ。
花に覆いかぶさるようにして、一呼吸待つ。
(君に触れたら、この布一枚隔てるだけで俺が君に手を出さないという信頼を壊すことになるのか)
とんでもない策士だ。
(君のことが本当に好きで嫌われたくないとしたら、ここで待たなきゃならないんだな)
最強の城壁。
笑いが込み上げてきて、ふっと力が抜ける。
(……わかったよ、君が俺に気持ちを向けてくれるまで、待つ)
地位も権力も手にして帝に並び立とうとする俺が、この少女の気持ちを乞うなんて、誰も思わないだろう。
(でもね、花ちゃん、俺はそういうやつなんだ。いつか君が俺のことを見つけてくれるように、君を大事にする)
だから。
俺は君には触れずに寝台の端に戻るよ。
君の寝息を背中に感じて夜を明かすんだ。
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