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「いつもより冬が来るのが早いですね」
冬の日暮れは早くて、公務が終わるともう夜だった。
公瑾さんが星空を見上げて目を細める。
さらさらの前髪が目にかかって、涼やかな目元と通った鼻筋、紅い唇が色を添えて綺麗だと思った。男の人に綺麗という形容詞を使うとは考えたこともなかったけど、公瑾さんにはそれが一番あっている気がする。
公瑾さんが星空を見上げて目を細める。
さらさらの前髪が目にかかって、涼やかな目元と通った鼻筋、紅い唇が色を添えて綺麗だと思った。男の人に綺麗という形容詞を使うとは考えたこともなかったけど、公瑾さんにはそれが一番あっている気がする。
「北西からの早い風は冷たい空気を運んで………って、聞いてるんですか…花?」
「あ、えっと、はい」
みとれていたなんて言えなくてしどろもどろになってしまった。公瑾さんの左の眉が上がる。ちょっとご機嫌斜めのしるし。
「ちょうどいい、星読みの試験にしましょうか」
「あー………それは、また今度がいいかな」
前に二十八宿を教えてもらったけど、小さな星座がいっぱいなのと見慣れない漢字ばかりでなかなか覚えられない。
恐る恐る言うと、もう少し左の眉が上がったと思ったら、ふっと優しく微笑む。
「まあいいでしょう、そんな赤い鼻をしてるのを見たら、風邪をひく前に部屋に戻らないといけない気になってしまう。花、暖かいお茶を淹れましょう」
「えっ、鼻赤いですか!?」
鼻を抑えようとしたら、先に摘まれてしまった。公瑾さんの指先は暖かくて、綺麗な笑顔が近づいてくる。耳元で、柔らかな声が囁く。
「ええ、それはもう、小猿のように」
そういって笑う。
「ひどい……」
「ふふっ、小猿のようにかわいいということですよ」
「ふふっ、小猿のようにかわいいということですよ」
うっとりする台詞でもないし、からかって言ってるのはわかるけど、しっとりとした夜露を含んだような艶のある声にどきっとしてしまう。公瑾さんは時々こんな風に私の様子を楽しんでいる。意地悪と思うけど、二人きりでいると意地悪を忘れるくらい優しくなるから困る。
部屋に通され、公瑾さんはお茶を淹れてくれた。その所作は静かで美しい。琵琶を奏でる時も、刀を構える時も、同じ静かな美しさがある。
温まった茶器を掌で包んでいると指先からすこしずつ体温が回復してきた。淹れてくれたお茶は味が濃かった。
「美味しいですね」
「口にあったようで良かった。冬摘みの茶はまろやかな味がするでしょう?」
公瑾さんが目を細めて柔らかく微笑む。
小さな卓の向こうから頬に手が伸びてきた。何度も触れ合っているけどいつもどきどきする。
音を奏でるように私の頬を指が伝い、髪を耳にかける。
卓越しに唇が重ねられる。
「今はこれで我慢します。続きはこの時期の星をおさらいしてからにします。花、こちらに」
星見の図を広げて隣を促された。
寒かったから、近くにいると温かくてきもちいい。
もといた世界でなじみのある星占いは十二星座だったけど、こっちの世界は二十八宿で多い。
一つだけ覚えたのがある。冬のオリオンは二十八宿では、参宿といって四神獣の白虎になる。
オリオンの頭のところは觜宿でくちばし。虎の髭でも尻尾でもなくて觜なのは不思議だけど、神獣だからなのかな。
今の季節ならきっと空に見えるはず。
「冬は寒いし日が落ちるのも早い。人も植物も静かになるように思うでしょう?
でも力を矯めている凛とした美しさがあるのです。
あなたを凍えさせるのは忍びないですが、冬も好きになってもらえるとうれしいですね。
さて、十分暖まったので、少しだけ星観に付き合ってください」
正直、せっかく暖まったのに出るのはおっくうだった。
でも、公瑾さんといる冬を好きになりたいと思った。
まるで冬に外出する子供の支度をするみたいに公瑾さんは私に衣を着せて首にも布をぐるぐるに巻く。
「ちょっと巻きすぎじゃないですか」
まるで雪だるまにマフラーを巻いたみたいなフォルムになっていると思う。
「大事な貴女に風邪をひかせられないですからね。行きましょうか」
公瑾さんは二人でいるときは優しくて甘いだけじゃなくて、驚くほど過保護だ。
手を繋いで、城の奥の方の明かりが少ない庭に出た。
衣は冷たさを含んでくるけど繋いでいる手は暖かかった。
「あ、あれ、参宿ですよね」
オリオンを見つけて指をさす。
「そうです。この季節、一番わかりやすいですね。花、そのまま星を見ていてください」
「そのまま?」
「いいから………目が慣れてくるまで……」
公瑾さんにくっついて星空を見上げる。
じっと見ていると、見えてくる星が増える。元の世界にいたときよりも、星がいっぱい瞬いている。
「すごい…星がいっぱい…」
そう言いかけた時、しゅっと明るく一条の光が夜空を横切る。
星が降ってきたみたい。
「わ……ぁ…きれい……」
次々と星が流れる。
きっと冬の流星群だ。
「公瑾さん、もしかして…」
「貴女に見せたかったのはこれですよ、花。この星の数ほど貴女への想いを言葉にしても足りません。だから、貴女に私が与えられるものを全て与えたい。愛しています」
あまりにもまっすぐな愛の言葉が照れくさくて、ぎゅっと抱きついた。顔を上げられずに胸にうずめたまま「公瑾さんといる冬が好きになりました」と呟く。
公瑾さんは、ふふっと柔らかく笑う。
「これから春も夏も秋ももっと好きになってください」
優しい声が耳元に響く。
「公瑾さんが一緒にいてくれたらきっと好きになります」
いつか、私からも愛しています、って言える日が来るかな。
今は全然余裕はなくて、言えてないけれど。
「ええ、ずっと離しませんよ。この降りそそぐ星に誓って」
ずっと公瑾さんの近くにいたい。そして、今日よりももっと好きになっていく。
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