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「周都督ー!何処におられますかー?仲謀様がご宴席にお招きですー!周都督ー?」

公瑾さんを探す兵士の声が昼前から何度も聞こえてきた。楽に長けている公瑾さんは宴席にもしょっちゅう招かれる。仲謀のところでは酒席が多い気がする。特に年末年始ともなれば、昼間からお呼びがかかることもしばしばで、ゆっくりもしていられなさそうだった。二人になれたと思ったらすぐに呼び出される。

この前はやっと会えたと思ったら仲謀が直々に迎えに来てしまい、主君の誘いを無碍にもできず、公瑾さんは引きずられるように広間へと連れて行かれた。

(このお正月モードが終わるまでは二人の時間は無理かも)

そんなことを思いながら、広間からかすかに聞こえる公瑾さんの琵琶の音に耳を澄まして城内を散歩していたら、大喬さん小喬さんに会った。

「あれ?暇なの?」

「あー、公瑾が宴会要員にされてるから?」

「まあ、そんなとこ、ですね」

ちょっと苦笑いしてしまう。

「んーと!じゃあ、女の子だけで楽しいことしよう!」

「尚香ちゃんのとこ行こう!」

「ふふっ、女子会みたい」

「「女子会?」」

大喬さん小喬さんの声はきれいに揃う。さすが姉妹。

「うん、私のいた国では、女の子だけで集まっておしゃべりしたり、お茶したりすることを女子会って言うんだ」

「「わーい!女子会しよう!女子会」」

尚香さんの部屋に集まって、お茶とお茶菓子を前に女の子だけで集まれば、女子会の説明なんて必要なく、すぐに他愛もない話が弾む。流行りのお菓子と、紅や飾りのお店の話題は、学校にいた時と変わらない。

みんな、お正月らしく着飾っている。目尻の紅が、本や絵で見た昔の中国のお化粧風でかわいい。

私はといえば、こっちの世界に来てからいくらか服装にも馴染んだとはいえ、新年などの年中行事の華やかな格好は何をどう選んでいいかわからないところもあって、公瑾さんが贈ってくれた晴れ着を着ているだけで、特に化粧はしていなかったし、髪も結ってはいなかった。

その様子をこの三人が放っておくわけがなかった。尚香さん付きの侍女の皆さんも加わり、着付けのし直しから、髪結い、お化粧まで、まるで着せ替え人形にされたみたいになる。正装の基本も教えてもらいながらで、楽しかった。

小一時間の格闘の末の出来映えに尚香さんは満足そうにしている。

「せっかくだから、公瑾殿に見せてらっしゃいよ」

「そろそろ解放されたかなぁ、ここに来る前はまだ琵琶の音がしてたんだけど……」

「お兄様も無粋ね、部下の時間を作ってあげてこそいい君主なのに……。わかったわ、私たちが宴席を適当に賑わせて公瑾殿を解放してあげる。貴女は部屋に戻っていてね。皆さま、行きましょうか!」

その声で何かを察したのか、侍女の皆さんは女子精鋭部隊の顔にきりりと変わる。尚香さんのいたずらっぽい瞳がきらきらする。多分、仲謀に絡んで、中庭で弓術勝負に持って行く気だ。矢がどこに来るかわかんないけど、酒宴続きの仲謀には酔い醒ましにちょうどいいのかもしれない。
尚香さんの心遣いが嬉しくて、お礼を言って部屋への渡り廊下を歩いていった。

元いた世界での鏡ほどはっきりとは映らないけど、鏡に映してもらった自分はいつもより煌びやかで、少し大人になったような気分になった。公瑾さんに教えてもらった曲を口ずさんで、ふわふわと歩く。

客室の並びの廊下を通ったら、不意に腕を掴まれ口を塞がれ、部屋に引き込まれて戸を閉められる。悲鳴をあげようとしたら、いつもの公瑾さんの香りがした。

「しっ、声を出さないで」

艶のある声で耳元で囁かれる。
振り返って見上げると公瑾さんと目があった。
頷くと、口を塞いでいた手を外してくれた。

「手荒な真似をしてすみません。……ああ、本当に綺麗だ。貴女の白い肌に紅が冴える」

慈しむように私の前髪を撫で、耳を指先が伝い、琵琶の弦を押さえる硬い指の腹で顎を持ち上げられて親指が唇をなぞる。それだけで奏でられる楽器のように息が震える。

「公瑾さんどうして…」

私の言葉は形のいい唇に塞がれた。

「尚香様が宴席においでになって、今から仲謀様に勝負を挑むから、その隙に早く貴女を迎えに行きなさい、私たちが総力を挙げて花を綺麗に飾っておいた、何人か見惚れていた男たちがいたけど放っておいていいの?と仰って…」

口づけの合間に説明される。ここまで廊下を通って来ただけだからほとんど人とすれ違ってもいないし、見惚れてた人なんていたかどうかもわからない。

「ふふっ、それは尚香さんが煽ってるだけかもしれないですよ?」

それでも、公瑾さんがこんなに慌ててくれたのはなんだか嬉しい。にこにこして答えると、もっと深い口づけが降りてきた。

「貴女は……相変わらず警戒心が薄い……綺麗ですよ。そして、貴女の微笑みは人の心を柔らかくする。……貴女が側にいない間、私は貴女が何者かに奪われはしないかと気がかりなくらいに…」

公瑾さんの言葉に熱がこもっていて息が震える。

「……大丈夫です……私が好きなのは公瑾さんです…」

そう言葉にするのが精一杯で。

「また貴女はそういうかわいいことを…」

ぎゅっと抱きしめられて、髪にキスをされる。

「……綺麗にしている貴女を自慢したい気もするけれど、ここに貴女を閉じ込めて独り占めしたい。そのくらい私の余裕がなくなってしまいました」

公瑾さんはそういうと、扉の内側から鍵をかけてしまう。そして、ほっとしたような顔になった。

「この数日、十分役割を果たしたので、あとは客人として時間を貰っても咎める人もいないでしょう。花、こちらへきて、もっと良く見せて下さい」

部屋の奥へ手を引いて促される。

「思った通りこのふんわり暖かな色の衣も、花、貴女に良く似合っている」

公瑾さんとやっと二人きりになれて嬉しいのと、いつもと違うお化粧をしているのが慣れなくて気恥ずかしいのと、愛を囁かれてどきどきするので多分顔が真っ赤になっていると思う。言葉もあまり出てこない私を、愛おしむように公瑾さんの指先が撫でた。肌が粟だったのは、冷えた指先だったからか、それとも……。

遠く中庭の方が賑やかになっていた。
そんな音もやがて私たちには聞こえなくなった。





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